庭で取り入れられるパッシブデザイン
パッシブデザインとは
自然の力を利用する設計技法のことをパッシブデザインと言います。住宅を取り巻く自然の力とはどのようなものがあるのでしょうか。そしてそれをどのように活用していくのでしょうか。一つずつご説明いたします。
太陽の光を調整する
一番大きな自然の力が太陽の光です。地球上のエネルギーの源です。この大きなエネルギーを活用しない手はありません。太陽の光のありがたみを実感するのは主に冬でしょう。
寒い冬でも室内にたっぷり太陽光を取り込めば、暖房が無くても暖かく過ごせるはずです。逆に夏は太陽の光を避けることで、快適に過ごせます。
落葉樹は夏の日差しを遮り、冬は日差しを邪魔しません。南に面した大きな掃き出し窓があれば、室内でも木陰を感じられるような場所に落葉樹を植えてみましょう。室内の環境ががらりと変わるはずです。夏は建物外壁が太陽に照らされ、熱く熱を帯びることがあります。窓の前だけでなく建物周囲に樹木があれば、外壁全体の熱さを緩和することができます。これにより冷房効率も大きく変わります。
日陰を作るだけなら可動式のシェードでも良いのでは?と思われるかもしれません。しかし樹木には日陰をつくるだけではない力があるのです。
植物の生理的活動
夏の暑い日、木陰に入るとひんやりした空気にほっと心が安らぎますね。木陰は日向よりも気温が低いのですが、これはただ太陽の日差しを遮っているから、というわけではありません。樹木は生理的活動により葉から水分を放出しています。これを蒸散作用と言います。この水分が気化する際、周囲の熱を奪うため、木陰は涼しくなるのです。
水分の蒸発散
樹木がある場所には、当然ですが土があります。土には雨水が浸透し、少しずつ蒸発していきます。この雨水浸透と蒸発散により、夏場の温度上昇を抑えられます。
例えばコンクリートやアスファルトの透水性は低く、濡れてもすぐに乾きます。そして太陽に照らされれば、触れないぐらいの高温になります。夜になってもすぐに熱は冷めず、夜間の気温低下を妨げます。家の周りをコンクリートにしてしまうと、より夏の暑さは過酷なものになってしまうでしょう。
できるだけコンクリートのような透水性の低い材料は少なくし、地面に水を浸透させる素材を多く使うことで、夏の暑さが和らぎます。土のスペースも残しながら、地面に水を浸透させることを意識しましょう。
風をつくる庭
京都の京町家は鰻の寝床とも言われる細長い形状をしています。家の奥には小さな坪庭が設えられていることが多いです。蒸し暑い京都では、この坪庭が風の通り道としての機能を担っているのです。大抵の場合、坪庭は建物に囲まれた日陰になっており、通りに面した玄関に比べひんやりとした空気が感じられます。この気温差により風がうまれ、心地よい風が吹くのです。
庭に樹木を植えることで、木陰や蒸散機能の効果で地表面が涼しくなります。これにより周囲と気温差ができると上昇気流が起き、風がうまれます。風により体感温度が下がるので、冷房が無くとも心地よく過ごせる時期が長くなりますよ。
本当の暮らしやすさとは
樹木は微気候調整機能を持っています。微気候とはある限られた範囲での気候を指します。ダイナミックに変化する太陽の光や風・雨を遮り、住みやすい環境を作ります。多くの生き物が森を好んで暮らしているのは、生き物にとって暮らしやすい微気候が生まれているという理由もあるのでしょう。
日ごろのお手入れが大変にならないよう、家の周りをコンクリートにしてしまいたい、というお声を耳にすることもあります。手入れが楽でも、快適な暮らしからは遠のいてしまうのではないかと考えます。少し手間がかかっても、パッシブデザインを活用して本当に快適な暮らしを叶えてみませんか?